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大阪地方裁判所 昭和54年(行ウ)90号 判決

原告

木林菊夫

右訴訟代理人

太田全彦

被告

東成税務署長

高田久治郎

右訴訟代理人

上原洋允

右指定代理人

高田敏明

外四名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判〈省略〉

二  原告の請求原因

1  課税の経緯について

(一)  原告は、大衆酒場及び酒類小売業を営む者であるが、その昭和三八年分ないし昭和四二年分の所得税について、所得税の確定申告を別紙第一の(一)のとおり申告した「なお、酒類販売免許が妻木林栄の名義になつていた関係から、右各確定申告も同人名義を使用して申告し、昭和四〇年分ないし昭和四二年分は青色申告書によつた。)

(二)  被告は、これらの申告は所得の帰属者に誤りがあるとして、昭和四四年三月四日付で各年分とも栄名義の総所得金額及び税額を零とする減額更正処分をし、同日付で原告に対し、別紙第一の(二)記載のとおり所得税の更正処分及び各加算税の賦課決定処分(以下本件各更正処分等という)をした。

(三)  原告は昭和四四年四月四日被告に対し、本件各更正処分等を不服として異議申立をしたが、被告は異議申立後三か月以内に異議決定をしなかつた。

そこで、右異議申立は、国税通則法(昭和四五年法律第八号による改正前のもの)八〇条により、昭和四四年七月五日大阪国税局長に対して審査請求をしたものとみなされ、更にこの審査請求は、昭和四五年法律第八号改正による国税通則法附則六条によつて、国税不服審判所長に対してされたものとみなされた。

(四)  国税不服審判所長は昭和五四年三月二二日付で本件各更正処分等について別紙第一の(三)記載のとおり一部取消す旨の裁決をし、各裁決書謄本が同年四月一七日原告に送達された。

2  本件各更正処分等の違法事由

(一)  被告は、大阪国税局所属の国税査察官が押収した原告の帳簿書類等に基づき本件各更正処分等をしたが、その際、昭和四〇年分ないし昭和四二年分の事業所得金額を算出するについて財産増減法によりながら、昭和三八年分及び三九年分の事業所得金額を算出するについては、その収入金額に昭和四〇年分の所得率を乗じた比率法によつて推計している。しかし、一般的にいつて、納税者の資産もしくは負債の増減の状況が把握されている場合は、比率法その他のすべての推計方法によるよりも財産増減法によるのが最適であるとされており、本件についても、被告は、昭和三八年分及び三九年分についても押収資料の調査に加え少し補足調査をすれば、昭和四〇年分ないし昭和四二年分と同様財産増減法によつて更正処分等をすることが可能であつた。ところが、被告は何らの補足調査もせず、安易に比率法によつて昭和三八年分及び三九年分の更正処分等をしたのであるから、右更正処分等は違法である。

(二)  原告は被告から木林栄名義で昭和四〇年分以降について所得税の青色申告の承認を受けていたところ、被告は、昭和四四年三月四日付「所得税の青色申告承認取消通知書」により、昭和四〇年一月一日にまで遡つて所得税の青色申告承認を取消したが、その取消通知書には、取消処分の理由として所得税法一五〇条一項一・三号該当と記載するのみで、取消の理由となつた事実については記載がないから、違法処分として取消を免れない。そうだとすると、昭和四〇年分ないし昭和四二年分の更正等通知書にはその処分の理由について何ら附記されていないのであるから、昭和四〇年分ないし昭和四二年分の更正処分等は理由附記がなく違法である。

(三)  原告の昭和三八年分ないし昭和四二年分の総所得金額及び納付すべき税額は別紙第一の(一)記載のとおりであり、本件各更正処分等(国税不服審判所で一部取消された後のもの)は、原告の総所得金額等を過大に認定した違法がある。

3  よつて、原告は被告に対し、本件各更正処分等(国税不服審判所で一部取消された後のもの)の取消を求める。

三  請求原因に対する被告の認否〈以下、省略〉

理由

一本件各更正処分等の存在〈省略〉

二推計の許容性及び合理性〈省略〉

三昭和三八年分及び三九年分の総所得金額について〈省略〉

四昭和四〇年分ないし昭和四二年分の総所得金額について〈省略〉

五昭和四〇年分ないし昭和四二年分の更正処分の理由附記の無いことについて

1  本件各更正処分等のうち昭和四〇年分ないし昭和四二年分について理由附記のないことは弁論の全趣旨により明らかである。

2 原告は、右各年分の確定申告を青色申告書を提出してしたというのであるが、しかし、その主張自体によつても妻栄名義で申告しというのであり、たとえ被告においてこれを原告の所得の確定申告があつたものとして本件各更正処分等に及んだものであるとしても、納税申告が租税義務の確定という公法上の効果の発生をもたらす要式行為であることを考えれば、その申告の有無は原則として表示されたところに従つて判断されるべきものであり、さらに昭和四〇年分以降の青色申告の承認は木林栄で受けていたものであることは原告の自認するところであるから、被告から青色申告の承認を受けた者はあくまでもその名義人として表示されている木林栄であるといわざるを得ず、したがつて、原告の主張する木林栄名義による確定申告をもつて原告の確定申告があるものということはできず、いわんや原告が青色申告書により申告をしたものということはできない。

3  そうすると、原告は青色申告者ではないのであるから、昭和四〇年分ないし昭和四二年分の更正等通知書に理由を附記する必要はなく、原告の理由附記不備による違法の主張は理由がない。

六各加算税の賦課決定処分について

1  〈証拠〉によれば、原告は、昭和三八年分ないし昭和四二年分の所得税の計算の基礎となるべき売上の一部を別途裏帳簿に記載して隠ぺいし、他方仕入等の徴ひよう資料を廃棄するなどして租税を逋脱する目的で不正手段を用いていたことが認められ、前項で判断したとおり原告が確定申告をしたものとは認められないから、無申告加算税に代えて重加算税が課せられる場合にあたる。

2 しかし、被告は、原告が妻栄名義を使用して確定申告をしているとして、過少申告加算税に代えて重加算税を課し、別紙第四の(一)ないし(五)のとおり金額を算出した(なお、昭和四〇年分及び四二年分についてはほかに過少申告加算税が課せられている)。

3 ところで、過少申告といい、無申告といい、ともに申告義務違反であつて、いずれに対する加算税もその本質において変わりはないと解せられるうえ、無申告加算税の方が過少申告加算税よりも多額になることは明らかであるから、無申告の場合誤つて過少申告によるものとしての重加算税額を賦課決定をしても、そのことにより原告に不利益を与えることにならない以上取り消しの対象になる違法にはあたらない。

第一 課税の経緯

(一) 原告の確定申告額

区分

総所得金額

納付すべき税額

昭和三八年分

七六三、二六八

五二、五〇〇

昭和三九年分

一、〇二九、五〇四

九〇、〇〇〇

昭和四〇年分

二、〇七六、七二三

三六七、五一〇

昭和四一年分

二、三五一、四八二

四〇六、一六〇

昭和四二年分

三、〇六五、五七二

六〇五、〇〇〇

(二) 被告の更正処分等の額

区分

総所得金額

納付すべき税額

過少申告加算税

の額

重加算税の額

昭和三八年分

一八、六五二、二八八

八、七二四、〇〇〇

二、六〇一、三〇〇

昭和三九年分

二二、三三七、六四四

一〇、八一四、四〇〇

三、二一七、二〇〇

昭和四〇年分

二二、四九一、五五三

一〇、九〇五、六〇〇

二、二〇〇

三、一四七、六〇〇

昭和四一年分

二一、二二八、七七七

一〇、〇六〇、五〇〇

二、八九〇、五〇〇

昭和四二年分

二二、三〇四、九七八

一〇、五六六、四〇〇

五、二〇〇

二、九五六、八〇〇

(三) 国税不服審判所の裁決額

区分

総所得金額

納付すべき税額

過少申告加算税

の額

重加算税の額

昭和三八年分

一五、九五五、八七〇

七、二四一、二〇〇

二、一五六、四〇〇

昭和三九年分

一九、四〇六、五八八

九、一〇五、一〇〇

二、七〇四、五〇〇

昭和四〇年分

一九、九九一、五五三

九、四二五、八〇〇

二、二〇〇

二、七〇三、九〇〇

昭和四一年分

一八、九七二、二七〇

八、七七八、一〇〇

二、五〇五、九〇〇

昭和四二年分

一四、九四六、七一七

六、四二七、五〇〇

五、二〇〇

一、七一五、一〇〇

七結論

以上の次第で、本件各更正処分等のうち国税不服審判所で一部取り消された後のものについては原告主張の違法は無く、なお、五2で判示したとおり、本件においては、被告は原告に対し無申告による決定をなすべきであるのに、誤つて過少申告による更正処分をしたものであるから、本件各更正処分等はその前提要件としての申告を欠く意味において違法であるということはできるが、本件各更正処分等に表示されている事業所得の実質的帰属者は原告であり、その所得が存在したことは前認定のとおりであるうえ、本来無申告による決定がなされるべきはずのところ、誤つて過少申告によるものとしての本件各更正処分等がなされたとしても、過少申告による更正処分の方が無申告による決定よりも納税義務者にとつて有利であることを考えれば、原告は右違法を主張しえないものというべきであるから(現に原告は右違法を更正処分取消し事由として主張していない)、本件各更正処分等について取消し事由は存在しないというべきである。

よつて、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

(志水義文 紙浦健二 梅山光法)

〈別紙〉第二ないし第四の(五)〈省略〉

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